社団法人 日本腎臓学会理事長 (岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学教授)
槇 野 博 史
日本腎臓学会は一昨年には創立50周年を迎え、「腎臓学に関連する研究・調査・知識の普及に努め、腎臓学を通して社会に貢献する」ことを目標にして活動して参りました。最近の私どもの調査によりますと慢性腎臓病(CKD)患者数は1,330万人に達し、成人の8人に一人はCKDという計算になり、CKDは国民病と言えます。CKDがあると進行して透析が必要となったり、心・血管疾患をおこし易いことが明らかとなってきました。検尿によるCKDの早期発見は重要で、治療法の進歩により、CKDは良くなってくることが明確となってきました。また、急性腎障害(AKI)についても、診断と治療法の開発が早急に望まれております。さて、私は2008年の福岡で開催された第51回日本腎臓学会学術総会において理事長に就任致しました。その際に3項目を主な柱とする所信を述べ、役員の先生方と一緒にその実現に努めて参りましたが、その進捗状況も含め今後の日本腎臓学会の取り組みを述べさせて頂きます。
第一に「社会に開かれた腎臓学会の活動」を実現します。CKD対策の推進と学際的活動の強化が急務です。下条文武元理事長により開始され、菱田明前理事長によって進められてきたCKD対策を更に発展させたいと思います。そのために慢性腎臓病対策委員会を引き続き重点事業推進委員会とし、「臨床研究推進委員会」と「学際的展開委員会」とを新たに設け、腎臓学会の組織改革を行いました。腎病理診断標準化委員会でUMINを活用したJ-RBR(日本腎生検登録:Japan Renal Biopsy Registry)が開始され、我が国における腎炎の実態が明らかにされました。そこで、非腎生検例も登録しネフローゼ症候群のみならず、IgA腎症、RPGN、多発性嚢胞腎等も含んだCKD全体のデータベースの構築(腎臓病総合レジストリーJ-KDR: Japan Kidney Disease Registry)を開始致しております。J-KDRを進行性腎障害の厚生労働省班研究や学会員と共有することにより、ネフローゼ症候群の前向きの臨床研究(JNCS)など数多くの臨床研究を学会として取り組み、発展させることができます。会員のJ-KDRへの積極的な参加をお願い申し上げます。データベースの構築により、CKDの患者さんの治療に関して重要な知見が得られ、今後の診療指針の基盤になると確信しております。
疫学研究小委員会では、プロジェクト「日本人のGFR推算式」において全国80施設の協力により、新しい日本人のGFRの推算式(eGFR)を作成しました。さらに、我が国の疫学研究をまとめ、CKD患者数とその実態を明らかにすることができました。現在eGFRの推算式を大学病院をはじめ各医療機関・検査会社の検査結果報告書に記載するようにお願いして、その普及にも努めております。皆様方の施設においてもeGFRの項目を新たに加えるようにお願いしてください。2008年には日本高血圧学会と合同でCKD診療ガイド高血圧編を発刊しました。前述のeGFRの推算式が新しくなりましたので、2006年に発刊したCKD診療ガイドの改訂版が出る予定です。さらに、腎臓専門医を対象とした作成したCKD診療ガイドラインも近日刊行予定ですので、会員の積極的な活用をお願いします。
学際的展開委員会ではCKDに対する学際的協力体制を構築するために透析医学会、小児腎臓病学会、泌尿器科学会、糖尿病学会、高血圧学会、循環器学会、産業衛生学会、移植学会、臨床腎移植学会などとの関係をさらに強化する必要があります。この学際的協力体制構築のために腎臓学会が中心となって設立し、国民へのCKDの啓発を目的とした慢性腎臓病対策協議会の事業の発展に尽力します。地域での活動には医師会との連携が不可欠ですが、糖尿病対策推進会議に日本腎臓学会はオブサーバーとして参加して、各都道府県における糖尿病対策推進事業に糖尿病性腎症の観点から腎臓学会のキーパーソンが参加して活動することとなりました。CKDの戦略研究であるFROM-Jでは全国の49の医会・医師会単位で腎臓専門医とかかりつけ医の病診連携の成果をみる研究が進んでいますが、腎臓学会でも腎臓専門医の立場から支援しており、地域でCKDの進行を抑制して透析患者の減少に繋げる必要があります。
第二に「日本腎臓学会の活動のグローバル化」を推し進めます。日本腎臓学会はレベルの高い基礎研究や臨床研究により、国際的に貢献して参りました。今後は特に、近隣のアジア諸国との連携が必要です。アジア・太平洋腎臓学会や、Asian Forum for Chronic Kidney Disease Initiatives(AFCKDI)では会の立ち上げを通して指導的な役割を果たしてきました。アジアのCKD対策を進める上でeGFRの推算式などアジア人に共通の問題を解決する必要があります。国際腎臓学会(ISN)において日本が貢献するためには会員を増やすだけではなく、実質的な活動に積極的に参加する必要があります。一昨年にはCKD診療ガイドの日本語版を刊行いたしました。英語版は特にアジアでのCKD対策のツールとなることが期待されます。ISN主催の世界腎臓デー(毎年3月第2木曜日)にも腎臓学会を挙げて取り組んできました。毎年、3月上旬に行いますイベントにもぜひご参加ください。ISN主催のNEXUSは、2010年4月に日本での開催が決定しました。テーマは"腎臓と血管システム"です。多くの方々のご参加とご支援をお願い申し上げます。2013年のISNの日本誘致も5月のISN総会にて決定します。このための提案書の提出を行いました。腎臓学会関係諸氏のミラノで行われるWCN2009への積極的な参加をお願いいたします。NEXUSやWCNを日本で開催することにより、わが国若手研究者と国際的に活動する研究者との交流を進め、これを機会に世界的に活躍できる人材の育成につなげたい考えております。
第三に「次世代を担う人材の育成」をします。腎臓学会の発展、腎臓病診療の充実のためには明日を担う人材の確保が不可欠です。腎臓専門医育成のキャリアパスを腎臓学会として明確にして、それに必要な支援プログラムを腎臓学会が構築する必要があります。腎臓病に興味を持つ学生、研修医に対して、教育を受ける機会を提供し、これを目的としたセミナー、夏の学校などへ人的、資金的支援を積極的に行いますので、多くのご参加をお待ちしております。基礎研究は今後の腎臓学会の発展のためには極めて重要であり、学会等で教育コースを設定し、研究者育成のために研究資金を募集する事業を新たに展開したいと思います。男女共同参画委員会の活動を通して、女性医師の診療・研究への参加が推進される環境が形成できるように学会として支援しております。CKDの治療の実践のためにはチーム医療は不可欠です。諸団体と協調し保健師、管理栄養師、薬剤師、臨床検査技師などを対象とした啓発活動を行います。
多くの先輩の先生方のご努力により、日本腎臓学会は発展して参りました。これからも社会からの要請に答えるために誠心誠意、最大限の努力を致します。皆様のご指導・ご支援を宜しくお願い申し上げます。