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検尿の考え方・進め方 - 第3章 5.慢性疾患における検尿の勧め



第3章 検尿の位置づけ
 慢性疾患における検尿の勧め

プライマリケアの場で加療されることの多い慢性疾患のうち、腎合併症の早期発見のために定期的検尿が重要である疾患につき、検尿の意義とポイントについて述べる。

・糖尿病
腎症の早期発見には尿中微量アルブミン定量が重要である。通常の試験紙法では尿蛋白は陰性でも微量アルブミンは増加していることもあり、また、試験紙法で蛋白陽性であれば、顕性腎症に至っている可能性を示している点に注意する。また、高血圧を合併する場合が多く、腎硬化症も併発し、そのために検尿異常を呈するケースもみられる。一方、糸球体腎炎の合併例も散見されるため、典型的な糖尿病性腎症の経過と合致しない場合は積極的に腎生検を行い鑑別すべきである。

・高血圧
高血圧性腎障害、特に良性腎硬化症は、高血圧に罹患し長い経過をもつ症例に認められ、他の高血圧性心血管病変も併発していることが多い。尿蛋白は少なく(1g/日以下)、尿沈渣所見も硝子円柱を時に認める程度である。発見の契機としては、高血圧経過中に出現する蛋白尿(時に血尿も)が重要である。定期的な血液検査も必要であるが、より早期の腎障害発見には検尿は有効である。一方、悪性高血圧は放置すると腎不全に至る病態であるが、未治療の高血圧症例での発症が多く、しばしば視力障害、頭痛などの症状が受信のきっかけとなる。その際には蛋白尿、血尿も認められるが、拡張期血圧が130mmHg以上であり、診断は比較的容易である。

・高尿酸血症・痛風
2002年7月に発刊された高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(日本痛風・核酸代謝学会)において、尿路管理は初めて、尿酸降下療法に付随したものでなく独立した治療法として位置づけられた。その意義として、高尿酸血症・痛風患者における高い尿路結石の合併率が挙げられている。酸性尿(pH6.0未満)の頻度が高いことがその理由とされ、酸性尿の持続症例ではクエン酸塩による尿のアルカリ化が治療の1つとして位置づけられている。したがって、高尿酸血症・痛風患者のフォローにおいては定期的な検尿によって尿pHに注意を払うべきであるが、これに加えて、尿路結石では潜血陽性となり、また痛風腎の進展に伴って尿蛋白の出現頻度が高まることも報告されており、定期検尿は尿路管理とともに腎合併症の早期発見においても有用である。

・関節リウマチ
関節リウマチに伴って生じる腎障害としては、薬剤による腎障害とアミロイドーシスが多い。薬剤性の場合、金製剤、ブシラミン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によるものが多い。前2者では4カ月以上使用した症例に多く、糸球体障害(多くは膜性腎症)として発症する。後者は、服用開始直後から1~2カ月の発症が多く、尿細管間質障害をきたす。まれに服用後数年で発症する場合もあり、注意が必要である。一方、アミロイドーシスは関節リウマチの罹病期間が長期の症例に発症し、尿蛋白、腎機能障害で始まり進行性に腎機能低下する。薬剤性腎障害の場合は、早期発見して当該薬剤を中止すれば回復が期待されるため、検尿によるチェックが重要である。膜性腎症ではネフローゼを含む高度尿蛋白を呈するが、尿細管間質障害では軽度の尿蛋白、血尿を呈する。アミロイドーシスの腎予後は不良であるが、膜性腎症との鑑別は重要であり、確定診断には腎生検が必要である。