02)理事長ご挨拶

日本腎臓学会の使命と展望

一般社団法人 日本腎臓学会理事長 柏原 直樹
(川崎医科大学 副学長 腎臓・高血圧内科学教授)

柏原 直樹 理事長

 平成28年(2016年)6月より一般社団法人日本腎臓学会の理事長を務めることとなりました。一意専心でこの重責を担いたく存じます。
 本学会の使命は腎臓学・腎臓病学の研究と普及を通じて社会貢献をし、国民の負託に応えることにあります。この使命を達成すべく、腎臓学の学理探究、人材育成、生涯教育の奨励、研究成果の社会還元・普及、国民の健康福祉への貢献と、学会活動は多岐にわたります。
 本学会は歴代理事長の先見性と創造性に富む卓越した指導力によって、会員数も1万人を超えるに至りました。会員諸氏、国民からの期待・要請に応え、使命達成に向けて一層、真摯に取り組む所存です。皆様の御協力、御指導の程宜しくお願い致します。
 疾患克服を目的に据えた学術研究の道程は平坦でも直線的でもなく、らせんを描きながら漸進的に深化して行くように考えています。未来を遠望し次世代を育成しつつ、倦むことなく、遅滞なく組織として前進してゆきたたいと決意しています。
 社会への貢献、次世代育成、腎臓学・腎臓病学の一層の進展、社会活動へのコミットメント・連携の強化、伝統の継承と革新、以上を学会活動の基本方針としたく考えております。

 

1.社会貢献:社会の負託に応える

 「腎臓病学の研究と普及を通じて社会貢献をし、国民の負託に応える」ことが本学会のミッションであります。学会活動は多岐にわたり、拡大傾向が続いており、今後も様々な企画・新規事業が提案されることが予想されます。公益に資する事を第一義とし、優先事業の取捨選択・選別を行ってゆきます。
 会員の大半は、診療の第一線で、患者さんと御家族と共に腎臓病と対峙し診療にあたっています。疾患の多くは不条理であり、私共は切実な日々を生きる方々を支え、病室で、あるいは研究室で様々な活動を通して腎臓病の克服に立ち向かっています。会員の日々の診療を支援し、疾患克服に向けての様々な活動を、「事業」として集約・組織化し、その成果を最終的に会員と患者・家族、さらに社会へと還元することが学会事業に通底する視点であろうと存じます。
 現在、日本腎臓学会では、「日本腎臓学会5カ年計画」を策定中です。「組織戦略・医療政策」、「基礎研究」、「臨床・臨床研究」、「教育・人材育成」、「国際化」、「地域・社会貢献・産学連携」に大別し、今後の腎臓学会の活動を決定する重要なグランドデザイン、アクションプランとなります。
 上記社会貢献の視点に立ち、重要度・緊急度の判別を行い、実施事業の優先度を決定いたします。5カ年計画を完成させ、計画に基づき事業を実施し、年度毎に進捗度を評価、計画修正を行う(PDCA)ことで効率的に事業が展開できると考えています。この活動は同時にInstitutional Research(IR)的な役割を担うことにもなります。評価には外部委員の参画も求め、またその活動内容をHP上等で高い透明性を持って開示し、社会に開かれた学会活動を展開して行きます。

2.人材育成、次世代育成

 「未来が過去を規定し現在を生成する」は組織論にも当てはまります。将来を託す次世代の育成なしには、本学会の先達の営々とした努力、現在の諸活動もその意味が問われかねません。若手、中堅会員を積極的に登用し各種の役割を担っていただき、視野の拡大機会を持っていただきたいと考えています。サポーター制度も活用し多様な人材の学会活動参加を支援して行きます。
 多様性(diversity)の醸成も健全かつ活力ある学会活動には不可欠であり、これまで以上に男女共同参画を促進したいと考えております。「5カ年計画」にも男女参画の一層の進展が重要目標として設定される予定であり、数値目標を掲げて学会・学術総会諸活動への参画を促進いたします。
 日本の専門医制度は大きな変革時期を迎えています。腎臓専門医制度を堅持するだけでなく、揺るぎないものに強化したく思います。「臨床研修医のための腎臓セミナー」の役割も大きく、恒久的開催を支援して行きます。
 腎臓病診療における多職種連携の必要性は言うに及びません。新たに立ち上がる「腎臓病療養指導士制度」を確立し、看護師、管理栄養士、薬剤師の関連職種との連携も強化し、腎臓病診療に携わる専門職の裾野を拡大し、医師に限定せず、多職種の次世代育成にも注力いたします。

3.腎臓学・腎臓病学の一層の進展

 腎臓学会の諸活動の中でも大きな成果を収めている事業は少なくありません。CKD対策、国際化活動、研究基盤の確立(レジストリ、疫学研究)、CENのIFの獲得・上昇、学会主導の学術総会の開催、ガイドライン作成と普及啓発は、その皓歯であります。
   CKD対策については、最終的なCKD・透析導入患者数減少、QOL改善を実現するためには、公的研究費等で得られた研究成果物の社会実装の促進、診療内容の標準化・均霑化の促進が課題であると考えます。ガイドライン評価のためのQuality Indicator(QI)の導入も必須と思います。平成28年度から新たに立ち上がる厚生労働省指定政策研究班「今後の慢性腎臓病(CKD)対策のあり方に関する研究」と緊密な連携をとり、推進して行きます。
 基礎研究分野では、JASN,KI誌等の掲載論文数の経年変化からもみてとれるように、国際競争力の弱体化が危惧されております。基礎研究活動を活性化・支援すべく、研究者の育成策、進行中のバーチャルリソースセンターの完成、国際委員会と連携した海外留学の促進に取り組みます。また5カ年計画に基づき、「腎臓病対策に関する提言」を厚労省、AMED等に提出し、問題意識の共有化を促進したく考えています。
 次に臨床研究の基盤としての疾患レジストリ-の拡充にも取り組みます。J-RBRは世界に類のない大規模腎生検レジストリーであり、多くの2次研究も展開されています。より入力負荷が小さい数10万人規模以上のデータベース(DB)として、厚労省事業として採択されたJ-CKD-DBを早期に完成させ、広く学会員の臨床研究に提供したいと願っています。J-RBRとの連携方法を確立し、相互補完的なDBとしたいと考えています。さらにゲノムデータ等の生体試料との連携も構想されており、J-CKD-DBを基底とし、J-RBR、生体試料DBが上層部を構成する重層的DB構築を目指します。

4.社会活動へのコミットメント・連携の強化

 腎臓病診療の質向上、疾患克服に向けて、学会、行政、政策立案機関等の関係者が、課題の所在を正確に理解し共有する、つまり「同じ風景を見る」必要があります。これまで学術委員会委員長として医療政策、学術政策に関与するステークホルダー(厚労省、AMED,文部科学省等)との交流機会・共通プラットフォーム創設に着手してきましたが、「学術企画研修会」等を定時開催し盤石な基盤を構築いたします。
 国際交流・連携に関しては、国際委員会の精力的な活動によって、ASNとの関係強化が進み、EDTAとの連携も進み始めています。この後は、AFCKD活動等を介してアジアとの連携強化も学会を上げて支援いたします。
 腎臓病治療薬開発の隘路であった腎臓病エンドポイントの再考を促すべく、関係省庁を連携しregulatory scienceの研究組織を構築中であり、学会活動の一環として支援を強化したく存じます。
 腎臓病は全身疾患の様相も呈しており、有効な疾患対策のためには他学会との連携強化も必須と考えております。これまでも複数学会との間に合同委員会があり成果を積んできました。学会内でより高次に位置づけられる組織に改編し、学会の総意がより反映されやすいものにいたします。

5.伝統の継承と革新

 日本腎臓学会はこれまで、諸先輩の先見性のある卓越したリーダーシップと、貢献精神に富む運営陣によって、成長を遂げてきました。この伝統を継承し、学会、会員、国民の医療に貢献すべく、粉骨砕身、一層の努力を行い課題解決にあたりたいと考えております。

最後に、日本腎臓学会は、腎臓学を通じて社会に貢献することを使命としています。学会員の皆様のみならず、社会からの幅広い支援を必要とします。腎臓病を克服するために、多くの方々と協力をして取り組んでいきたいと思いますので、皆様の御理解、御協力、御指導の程宜しくお願い致します。